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アストロロジカル・サイン

TW2、シルバーレインのPC『終日魁斗』『神代結城』『白夜ほのか』『終日揺光』のブログ兼SS置き場。

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【銀雨SS】キオク




※読むな、とだけ言っておく






























































































































 ……あれは、今からずっと前。

 俺がまだ、“ぼく”だったころ。

 日付も忘れた、二年前の冬の日のことだ。


 気がつくと、廃墟にいた。

 唐突に、俺の……ぼくの記憶はそこから始まる。

 何がどうなっているのかも分からないし、そもそも自分がなんなのかも分からない。

 ただ、気がつくとそこにあった。

 そして、気がつくと周りにゴーストがいた。

 もちろん、そのときのぼくにそれが何なのかを知る術はなかったし、それが何なのかを知っているわけでもなかった。

 ゴーストはお構いなしにぼくを襲った。

 ぼくはぼうとその動きを見ていた。

 気がつくと、体が勝手に動いていたのは言うまでも無い。

 正直、その頃のぼくは頭の中にいくつも穴が開いていた。

 そもそもその辺りの記憶もあいまいで、どうやってゴーストの群れを切り抜けたのか覚えていない。

 けれどとにかく、ぼくは必死に逃げ回ったがついに倒れ、ゴーストの群れがぼくの周囲を取り囲んでいた。

 あぁ死ぬのか、とかそういうことも分からなかった。

 ただ、少しの恐怖と大きな虚無だけがあった。

 そして、ぼくは出会う。

 鮮烈に。強烈に。激烈に。網膜を灼く神の雷。

 ――選びなさい

 頭の中に声が響いた。

 ――ここで、何も知らないまま恐怖とともに死ぬか

 神様なんてものも知らなかったぼくにも、その声の神々しさが分かった。

 ――いつか、私の下で絶望と苦痛を抱いて死ぬか

 差し出されもしない手。冷徹にただ事実だけを見る瞳。

 ――選ぶのなら立ちなさい

 そこに信用できる要素は何一つなかった。

 ――呪われた契約をしなさい

 そこに救済という概念は一つも存在しなかった。

 ――喘ぎ、飢え、咽び哭くしかない現実を、享受し破壊し改変する権利をあげるから

 それは、悪魔の囁き。

 ――貴方次第で幸せくらいは得られるような、不自由で自由な権利をあげるから

 その手に縋れば二度とは戻れない。

 ――永遠に外れない首輪を代償に

 本能が告げた。本能に従った。



 ――貴方に、命をあげるから



 ぼくは、そう昔の俺は、その血の契約に応じたのだ。







「ここが貴方の部屋よ」

 そういって案内された簡素な部屋を、ぼくは呆然と眺めた。

「家具は足りないけれど、まぁ後々増やしていけば良いわよね」

 そんなBGMを後ろに、部屋の中心で一人立って、見回してみた。

「ところで」

 後ろの声が一瞬途切れる。

「貴方、言葉は分かるのかしら?」

 そんな声に、ぼくは意味も分からず首をかしげるだけだった。


 今だから言おう。

 俺は日本語どころかあらゆる言語を知らなかったし、歩く事は出来てもしゃがみかたは知らなかった。

 箸は正しく持てても、モノの食べ方を知らなかった。

 記憶があいまいで、ばらばらだったのだ。

 常識なんてものは、もちろんなかった。

 俺を拾ったのが、ほかならぬ七科七紙でなければ、恐らくコミュニケーションも取れなかっただろう。

 一年ほど勉強を続けて分かった事だが、彼女は俺の体の電気信号を全てハッキングして体を動かしてくれていた。そんな離れ業に必要な精神力と魔力は、人間の限界に達しているといっても過言ではないだろう。

 いまさらすぎるが、俺は彼女に愛されているのだろう。保護者として、一人の子供を育ててくれていたのだと思う。

 ……そうやって基礎運動を学び、言語の意味を学び、発音の方法を学び。

 まるで機械の中にデータを詰め込む作業だ、と後にあの人は語る。

 彼女は、ぼくという入れ物に俺という存在の、その人として必要な部分を植えつけてくれたのだ。

 日常生活に必要な動作を全て覚えるのに一週間。

 日本語をきちんとしゃべれるようになるまで一ヶ月。

 常識というものを人並みに理解するまで二ヶ月とちょっと。

 ぼくは、拾われてから三ヶ月を経て、ようやく人間になったのだ。









 学校にいってみないか、と言われた。

 その頃にはぼくは人間教育を終え、学力をつけるべく勉強を始めていた。

 七紙さんの教え方が上手いのと、元から頭はキレるほうらしいのとで、ぼくはすいすいと学力をつけていた。

 だから、そういわれて嬉しかった。

 戸籍上は中学二年。恐らく肉体年齢はもっと上なのだろうが、精神年齢的にもここくらいがいいだろうといわれたのでそうなった。

 ぼくは春から、市内の公立中学校に通う事になったのだ。

 ようやく普通の人間として生きていけるのだと、嬉しく思った。

 ――だが、そのときのぼくに人として足りないものが一つあった。

 人と触れ合った経験。コミュニケーション能力が。

 人の波に尻込みし、話しかけられ恐怖し。

 一週間で、ぼくは苛めを受ける羽目になる。

 あまり深く言いたくは無いが、七紙さんが超常の側の人間でなければ、俺の体には深い傷がいくつも残っていただろう。そのときの絶望は言うまでも無い。

 人と触れ合う事はこんなにもおぞましいのか。

 人の心とはここまでも鋭利であったのか。

 そして同時に、契約の口上を思い出していた。

 現実を、享受し破壊し改変する権利。

 自分次第で幸せくらいは得られるような、不自由で自由な権利。

 ぼくにあるのはそれしかない。

 交流というものを鍛えようと思った。

 人と上手く付き合えるようになろうと思った。そして人間らしく汚れようと思った。

 ――それからの一週間で、ぼくは上手なうそのつき方を覚えた。

 ――さらにその後一週間で、ぼくは笑顔の仮面を手に入れた。

 そして、元から無駄にキレる頭があった。

 ぼくを苛めていたグループは全部まとめて警察沙汰にして、退学させた。

 ぼくをハブいていたグループは全部まとめて虐めを受けさせた。

 そしてぼくは常に中立を保ち、常に「いいやつ」として生きてきた。

 虐めは先生の前では適度に止め、そして見ていないところでは適度に煽る。

 嗚呼、自分はそのときようやく生きた。いつの間にかぼくはクラスの中心で、虐めの傍観者。先生からは信頼され、少なくともそのときは最高だと思える生き方をしていた。

 壊れたのは、そう、丁度転校から三ヶ月目。

 ぼくはのどの渇きを覚えた。

 コーラを“貰って”、飲み干しても一行に渇きは癒えない。

 水道の水を五分間飲み続けても全然癒えない。

 癒えない。満たされない。

 酷くノドが渇いていた。

 しばらく体調不良を訴え教室から出て、一人で飢えに耐えていた。

 そして少し収まった頃に戻って、クラスメイトを見た瞬間。

 ――気がつけば、あたりは一面の赤。倒れ伏した幾人ものヒトガタ。

 昨日ラブレターをくれた可愛い子。

 人気者になってからはよくつるんでいたクラスの不良。

 転校初日から何故か親しくしてくれた友。

 その他何人かが倒れていて、トマトジュースのような、赤いなにかをたれながしていた。

 あたまがぼうとしびれてかんがえることをやめていく。

 そして暗転。

 次に目を覚ましたときには、すでにコトは片付いた後。

 七紙さんが現れぼくを止め、助けられるやつは怪しまれないように助け、何より世界結界が狂人の大量殺人ということで全てをごまかしてしまった後。

 自殺しようとして止められた。

 本気で三回殴られた。

 一回はいじめを受けていなかった事を相談しなかったから。

 一回は自分の報復のためにいじめを行っていたから。

 一回は自分の欲求に耐えようとしなかったから。

 それが終わった後に泣いて謝られた。

 いじめを受けていた事に気がつけずにごめんと。

 そこまで追い詰められていた事に気がつけずにごめんと。

 もっと早くに真実を伝えてあげなくてごめんと。

 目の前で、初めて、世界最高の魔術師が泣いていた。

 少なくとも、自分とは遠いところにいる人が、こんなチンケな生き物に泣いてくれていた。

 そのとき初めて、人の優しさの本質を知った。

 泣きながら、ぼくはぼくの本質を聞かされた。

 吸血鬼であること。その中でも異端であること。

 強烈な吸血衝動に駆られる血筋であるということ。

 全て語りつくして、なおその人は泣いていた。

 ぼくのために。

 人に見下されたから人を見下し、人を信じないくせにうわべだけ笑顔で。

 そんな最低のぼくのことを思って、くれていた。


 ……多分、そのときの決断が、俺の人生を決めた。


 望むのは小さな幸せ。

 ぼくと同じように、死んでいったひとはきっといた。

 ぼくと同じように、酷い仕打ちを受けた人はきっといた。

 ぼくは、ぼくがされたくなかったことを人にしていた。

 ぼくは、ぼくが一番泣かせたくなかった人を泣かせていた。

 ぼくは、もう人並みの幸せを受ける権利はいらない。

 ぼくは、恐らくはひどい人間で。

 ぼくは、惜しむらくはひどく恵まれていた。

 ぼくは。

 俺は。

 俺は誰も泣かせたくない。

 俺は分かっている。死への喪失への恐怖を。

 心の鋭さの、汚さの痛みを。

 分かっている。驕りなく、絶望というものを知っている。

 そしていつかは狂い壊れ大切な全てを奪い去っていく存在であることも知っている。

 それでもできることをやる。

 俺は、今度は、誰も泣かせないために生きようと思う。

 俺は、今度は、誰もを笑わせるために生きようと思う。

 きっと、前より辛くて苦しいと思う。

 きっと、いつかは耐えられなくなるのだと思う。

 それでも、俺は皆のためだけを考えていこう。

 特定の誰かを愛そうとするな。世界中の誰もを愛そうとしろ。

 なるべくなら傷つけるな。だが守るためならば容赦をするな。

 幸せは小さくていい。今までのことを抱えていたら、もうこれ以上は抱えられそうにない。

 だから、小さな幸せを、隙間に埋めていくように。

 いまだ泣いているどうしようもない保護者に、一言声をかけた。

 ようやく見せてくれた笑顔は、どうしようもなく幸せにしてくれた。

 それでいい。

 俺の願いは、みんなの笑顔。

 月並みで、ありきたりな、日常の笑顔。

 俺は、そう――道化になる。

















 ……目を覚ませば、そこはいつもどおりの自分の部屋。

 なにか懐かしい夢を見ていた気がするが、すでにもやの向こうにあって見えやしない。

 さて、深夜三時。何をしようか。

 欠伸が出て、涙がこぼれた。

 仕方ないので、もう一回寝ることにした。



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